十年後に読み返したい本

10年後に読み返したい本(市岡高校図書館発行 "書燈" への寄稿文)
 『 恋歌(れんか)』 朝井まかて著 講談社

 第150回直木賞受賞作。心奪われ、魂を揺さぶられる、とはこういうことを言うのでしょうか。水戸藩天狗党の動乱(1864年)を題材に流麗で上質な文章が紡ぎだす良く構成された秀作です。

 江戸の商家に生まれたおきゃんな娘、登世が水戸藩士の林忠左衛門以徳に嫁ぐところから物語は始まり、理不尽で凄惨な動乱に巻き込まれながら、最愛の夫をはじめ愛する者達を次々と失っていくという人生が描かれます。武家の矜持と亡き夫への想いを貫き、幕末から明治を生き抜いた主人公、中島歌子(幼名:登世。歌人。樋口一葉の師匠にして私塾「萩の舎」主宰)。その苛烈にして純粋な生き方にあなたは感動し、強く生きるとはどういうことか、人を愛するとはどういうことか、ということを深く考えさせられることでしょう。

 タイトルから想像される恋愛小説としての完成度もさることながら、歌子の詠んだ和歌31文字に散りばめられた無限量ともいえる夫への愛情と想像力の奥深い広がり、であるからこそ、和歌と恋歌の親和性は非常に高く、文学的に傑出した作品に仕上がった、という言い方もできるのではないかと思います。同時に、歴史小説としての圧倒的な存在感をも示しおり、骨太さとエンタテインメント性に富んだ、そういう意味でもまさに直木賞にふさわしい読み物であると言えるでしょう。

 ここまで書評風に一気に書きましたが、この本との出会いは衝撃的でした。物語の背景には絶望的な理不尽と不条理が流れており、すべてのものを問答無用に破壊していくような狂気が漂っています。であるにも関わらず、それに立ち向かっていく歌子の凛とした生き様は力強くもあり、また切な過ぎる。粛々と閉塞していくだけであった平成の時代から令和の時代に移り、この物語に込められたメッセージはどう受け止められていくのでしょうか。10年後、是非もう一度読んでみたい作品です。

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