令和3年 書燈 第119号より

今年も市岡高等学校図書館から書燈が発行されました。以下に校長寄稿を掲載いたします。

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背中を押してくれた一冊

「人生を語らず」 吉田拓郎

校長 岸野圭吾

 背中を押してくれた一冊、というお題はなかなか難しい。少なくとも昨年のお題であった10年後にもう一度読んでみたい一冊、よりは遥かに難しい。なぜだろうと考えてみる。そうか、これまでの人生で背中を押された経験は何度かあるが、そのなかのどの経験を書けばよいのか、というところで決めかねているのだ。つまり、この一文は自分の履歴の一部をそのまま自由に書くというよりも、高校生の君たちへ贈る言葉であることを強く意識しているということだ。であれば、就職・転職したり結婚したり親となったり、というような君たちにとって少し先の人生の場面を描くのではなく、いま現在、高校時代のことを取り上げるべきだ。そんなことに気づく。

 古い話で恐縮だが、私の高校時代1974年にリリースされた吉田拓郎さんのアルバムに"人生を語らず"という曲が収められている。実は、この曲が背中を押してくれた一冊ならぬ、背中を押してくれた一曲だ。数年前、ボブ・ディランがノーベル文学賞を貰ったのだから、書燈に本ではなく楽曲を特選しても問題はないだろう、と勝手に決めてしまう。だが、著作権と紙面の都合もあり、歌詞をひろうことは控える。興味があれば調べてほしい。一度聴いてみてほしい。ただ、私なりに心が震えた部分だけはざっくりと書いておく。

 ささやかな平穏や日常を疑い、そこを超えていけ。中途半端に分かったようなことを語るんじゃない。そこから飛び出していくんだ。さあ行こう、君が旅立つ時だ。

 あの頃は、そんな自分へのメッセージだと思って、住み慣れた故郷から東京へと向かった。あれから45年。「ささやかな日常こそが人生の究極の理想じゃないか。」と分かったように人生を語ろうとする自分がいて思わず苦笑してしまうが、あの頃の自分を否定することは絶対にない。それこそが私の履歴だから、それこそが私の人生だから・・・。

されど、いまだ人生を語らず。

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