Gabe Glück Mühe Dankeschön

「いい声、とてもいい声、びっくりした。」ご指導の時にいただいた最初のお言葉でした。世界で活躍されている指揮者の方から直接指導いただけることなど音楽に携わりながら一度もない方がほとんどではないでしょうか。おそらく生徒の皆さんは不安でいっぱいの中、その時の精一杯をそこで表現しました。サントリー一万人の第九の番組のプログラムで茨木高校の取り組みや実際の活動を取材するにあたって総監督・指揮をされている佐渡裕様(以下佐渡さんとお呼びします。)にお越しいただき、合唱、吹奏楽部へのご指導をしていただきました。冒頭のお言葉のあと、「円を描いてスイングしているように、腕でも、膝でもまわして、足の小指まで意識して、すべての細胞を音にしてください」とお声がけくださいました。その後、曲の構成について触れられ、歌詞の中身、歴史、時代背景をご教示いただき、「こんな世の中じゃない、もっと良い世の中にしよう。平和になる、一つになる。」壮大な言葉で綴られた、貴族のものじゃない、民衆の音楽なのだというメッセージを生徒一人ひとりの心に届けて下さいました。吹奏楽部に対しては、「オーケストラは、みんな違う時間に生まれ、違う国に生まれ、違う言葉を話し、それぞれが違う役割を果たす、最大人数の音楽集団。それぞれが違う存在だからこそ、違いをはっきり認識し、他の人の言葉や演奏に耳を傾け、お互いに認め合い、力を併せることが大切である。」と語りかけていただきました。

佐渡さんから頂く、アドバイスごとに歌や演奏が変化していく。その過程と結果が織りなす時間の流れの中で、生まれてくる一体感。体のすべての細胞を動かして表現したものは、聞くもののすべての細胞を動かす源となる心を揺さぶることになる。この経験をしたことが新たに人を、音楽を創り出していくことにつながるのだというところに思いが至ったとき、この貴重な時間を一瞬たりとも逃すまいと懸命に耳を傾ける生徒たち、一人ひとりに宝石箱が手渡されているような錯覚に陥りました。

合唱、吹奏楽部へのご指導を終え、「正直、びっくりした。歌も演奏もみるみる上達した。」そして、「まだ100分の1くらいしか言ってないけどね。」と付け加えられ、「3月の本番までもっと、もっと上手になるよ。」というメッセージ -ほめていただく言葉、向かい合わなければならない課題の存在、そして求めていくべき可能性- について言及してくださいました。

質疑応答に際しては生徒一人ひとりの質問に時、労を惜しまず、丁寧にお答えくださり、必ず「お答えになっていますか?」とご確認いただきました。質問に対して答えたという事実より、自分の答えが相手に届いたかということを確かめられる誠実な姿勢が佐渡さんとやり取りをしたことのある全ての人の心に届き、聴衆(民衆)の歓喜へとつながっていくのだということを示していただきました。

お約束の時間が残りわずかになったとき、次のお言葉をいただきました。奇跡を起こす方程式があり、その要素を3つ挙げられました。才能、運、努力、そしてその3つを足す。その後、それをかっこでくくる。そして一番大事なことはかっこでくくられたものに掛け算をすること、それが奇跡を起こすうえで大切なものだとお話になりました。何をかけると思いますか。感謝をかけることでその方程式は完成するのです。―(才能+運+努力)x感謝― 感謝が1.0に満たなければほかの3要素どれがたくさんあってもダメなのですね。佐渡裕様、貴重なお時間をいただき、参加者一同の心を射抜いた数々のお言葉、ありがとうございました。ありがとうに満たされ、たくさんの奇跡が起こる軌跡をみんなで描いていきたいと思います。

終わりに

佐渡さんが世界で大活躍されるのは一回、一回接しておられる目の前の方々に心からのご指導と言葉掛け、お心遣いがあってのことだと改めて感じました。目の前の道を、少しずつ広げていくことが海外につながっていくということをめざしていきたいと思います。ありがとうございました。                    Road・broad・abroad

数10年にわたってより多くの生徒に本物の音楽を感じる機会、音楽を通じて自己を表現する機会を与えることにひたむきに取り組んでこられた結果、この日のような素晴らしい時間を得られることになった本校の音楽科の先生、そして機会をものにし、お手伝いいただいた卒業生、音楽に向き合って努力し続けた生徒の皆さんにおめでとうという言葉を送りたいと思います。夢を描いて、その夢に向かって走り続けることは何よりも大切ですね。

                           絵に描いた餅→棚から牡丹餅

(触れなくなった指揮棒はまさしく宝石箱に仕舞いたくなるようなものですね。)