種々の桜が咲き誇り、祝意を告げ、美しく命を燃やし、その散り様すら命の尊さを伝えてくれる。ひらひらと舞う花弁が、手のひらを振り、見送り、出迎えするようにこの日、入学式を待ちわびてくれているようだ。本年、創立130周年を迎える本校は、80期生をお迎えする式典を開いた。大きな可能性を携えて、心に残る3年間が過ごせますように!
以下は式辞です。
式 辞
◎ 種々さまざまな桜がたすきリレーをしながら咲き誇り、春の訪れを日々確実にしてくれるこの佳き日に、大阪府立茨木高等学校、第80回入学式を挙行しましたところ、公私ご多用のなか、久敬会、PTA、後援会の各ご代表のご来賓の方々にご臨席を賜り、入学生の前途を祝福していただきますことに、心よりお礼を申し上げます。ありがとうございます(来賓に礼)。皆様には今後とも、本校の教育に対しまして暖かいご支援を賜りますようお願い申し上げます。ただ今、入学を許可しました360名の新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。教職員を代表して心からお祝いを申し上げます。
◎ 本校は、明治28年に、大阪府第四尋常中学校として創立され、今年で記念すべき、創立130年目を迎えます。本校の初代校長、加藤逢吉(かとう ほうきち)先生が定められた校訓「勤倹力行(きんけんりょくこう)」(意味は生活を質素に日々努力して自ら磨くということです)と「質実剛健」の校風は、現在までしっかりと引き継ぎ、受け継がれています。
◎ また、本校では、今、ご紹介した「勤倹力行」「質実剛健」の伝統のもと、三つの教育目標として、「高い志の涵養」「枠を超える知性を備えた真のリーダーの育成」「自主自律の精神の育成」を掲げ、高校生活の中で生徒の皆さんが「本物に触れること」「多様性に富む、様々な年代の個性豊かな先輩方の背中を追いかけること」「未知なることに興味を持ち、問いかけることで互いに切磋琢磨すること」ができる仕掛けを準備し、様々な取り組みを実践しています。
◎ 皆さんも、本校の伝統である「勤倹力行」「質実剛健」の姿勢を堅持しながら、常に「高い志」を抱き、日々の努力を重ねて学校生活を送ってもらいたいと思います。
◎ コロナウイルス感染症に翻弄され続けた数年間。ようやく大きな波を乗り越えつつも、いずれかの時期に登校できなかった経験を持つ生徒の皆さんへのその余波は大きく、いまだに心のどこかに何かを抱えながら、生徒のみならず教員も学校も唯一解ではなく最適解を探し続けています。世界に思いを馳せるとウクライナやガザ地区での戦闘は止む兆しがなく、人が人を愛することや慈しむ気持ちが全く見いだせない状況が映像として提示され続けています。無力感に苛まれることばかりで未来をどのように切り開いていけるのかに対する解を見出すことが可能には思えません。AIの開発による目覚ましい科学技術の発展、豊富なコミュニケーションツールにより以前よりも世界は小さくなり高速で、大量な情報を密に伝えあうことが可能になっているはずなのに世界規模のみならず、この国の国内でも円滑にコミュニケーションが取れているとは言えない状態です。
◎ これまでに築き上げてきた様々な科学技術や知識を総動員しても解決ができない事態に直面する中でできることは何でしょう。それは身の回りで起こっていることや自分の身に降りかかってくることを「奇妙」なもの、「奇」なるものだと受け止めること。そしてその「奇」なることを面白い、あるいは興味を持つこと、つまり「奇」を愛する、「奇」を好む気持ち、心を大切にしてもらうことー「好奇心」が世の中を変えていくカギとなるのです。自分にとって不必要、関係がないではなく、出会ったコト、ヒト、モノの「奇」なる部分を愛し、その多様性を受け入れ、新たなものを生み出す力を身に着けてほしい。好奇心の英語"Curiosity"の前半部分のCureの語源はCare、自分とは違うものに注意を払い、かかわりたいと思う気持ちを表すとも考えられます。一方、漢字の「奇」は大きな可能性と書きます。「好奇心」が人をケアし、新たな可能性を生み出す大きな源となってくるとするならこれ以上の宝物は存在しません。世の中を変えていくのは他ならぬ皆さんの面白いと思う気持ち、かかわりたいという心持ちに他ならないのです。「知ってる」"Know"や「知ってた」"Knew"のKを取り去って、さあ、今"Now"新しい"New"を見つける旅を茨木高校で始めてください。
◎ 昨年度の妙見夜行登山で50㎞の道を歩く道中で道に迷い、何一つ明かりのない農道のど真ん中で、不安の真っただ中にありながら、空を見上げ、「空にはこれだけ多くの星がある。普段の生活の中では気づくことができなかった輝きだ。いつも夜空にはこんなに多くの星があることに気づくことができて良かった。道に迷い、行きあぐねたからこそ、ここで止まったからこそ見上げる気分になれた。よかった。よかった。行事委員さんに感謝やな。」と語り合う生徒の会話を聞きながら、NowからNewを作り出す姿を垣間見ました。「奇なる」状況どう受け止めるかで前に進む力が身につくのです。
◎ 本校が掲げる「自主・自律の精神」の下でお子様は自ら考え、自ら行動できる「生きる力」を備えて成長していきます。そこで、保護者の皆様に、2点お願いがあります。お子様は高校生活の中で、問題に直面しながら、感じたことを言葉にします。今までのお子様とは違う部分が保護者の方々にとって「奇妙」に見える瞬間があるかもしれません。その時にはどうぞ「好奇心」を発動して前へ進もうとするお子様をお「見守り」ください。「見守る」と口にすると最初3文字が常に上下の唇が引っ付くことに気づきます。英語のMも同様です。この音は大きな心で包み込むという意味を持つそうです。私たち教員も同様に「見守ら」せていただきます。どうか大きな心で包み込んでください。2点めは「寄り添って」いただくことです。自主自律の精神を育むということはただ黙って見守るだけでは叶わないこともあります。「奇」なる新しい挑戦をしているお子様を屋根を表すウ冠で「奇」を覆い心を寄せていただけることをお願いいたします。ご家庭、世の中の宝となるお子様をお預かりいたします。それゆえ、学校とご家庭が思いを共有し、ともに協力し合い、子どもたちに接していくことが、極めて大切であると考えています。どうか本校の諸先輩方が築き上げてきた伝統ある教育方針を十分ご理解いただき、保護者の皆様のご協力とご支援を賜りますようお願い申し上げます。
◎ 新入生の皆さん、さあ、今日から皆さんは「茨高生」です。私たち教職員は、皆さん一人ひとりが持っているすばらしい志をさらに伸ばしていけるように全力でサポートしていきます。
最後に絶対に忘れてほしくないことをお伝えします。それは疑問を持ち、問題に向き合っている皆さんを誰かが必ず「みて」いるということです。見学の「見る」。観察の「観る」。診断の「診る」。看護の「看る」。いつも、どこかで、見守っていること、いつも誰かが支えていることを心の中に携えておいてください。
今日から始まる皆さんの高校生活が、新しい自分を発見し、実りあるものになることを心から願い、私の式辞といたします。
令和七年四月八日
大阪府立茨木高等学校
校 長 高江洲 良昌