校長 片山 造
日本では、土用の丑の日に(うなぎ)を食するという文化がある。今回はそんなお話。
担任をもったら、幾つかやってみたいことがあった。その一つが、(通知表を配ること)。教室で配るのではなく、自らポストマンになり生徒やその家族が待つ家庭に配るのである。
終業式の日は午前中に学校が終わるので、他の先生に部活動を任せ、車で配達に出かけた。クラスは40数名いたので、一軒の滞在時間は15分。北海道でのこと、遠方から通学している生徒もおり、できるだけ効率よく回れるように、保護者と事前に連絡をとりあい、訪問時間を決めておいた。当時はカーナビなど普及していない時代。地図と生徒からの聞き取りをたよりに目的地をめざす。目的地が近くなると、ほとんどの生徒が分かりやすい場所まで出てきて手を振りながら家まで誘導してくれた。
1軒目、玄関で通知表を渡そうとすると、「どうぞ、お入りください。」とのこと。中に入ると、ちょうど、お昼時だったのか?妹や弟も含め食事をしていた。食べていたのは(うなぎ)だった。「先生もどうぞ。」促されるまま、生徒・妹・弟たちと美味しくいただいた。
2軒目、玄関を入った途端に(うなぎ)のいい香りがした。1件目と同じく、中に通され生徒・母親と学校でのことや家でのことを話しながら本日2回目の(うなぎ)をいただいた。
3軒目、大家族(9人兄弟)の家では、玄関前に弟や妹が待ち構えており、「遅い、はやくはやく。」と中に入ると、またしても(うなぎ)が用意されていた。私を席につかせるやいなや、「ありがとうございます。いただきます。」と私に向かって感謝の後、ムシャムシャと大家族の(うなぎを食べる会)が始まった。みな、愉しそうに食べていた風景を今でも鮮明に覚えている。
その日は、夜まで20軒近く(通知表)を配ったが、半数近い家で(うなぎ)または(うなぎの話)が出てきた。そして、もちろん?美味しくいただいたり話が盛り上がったりした。なぜ、そんなに(うなぎ)が出てきたのか?それは、その日が土用の丑の日であるだけではなく、どうやら、教室で掃除の時、私が生徒の一人に「もうすぐ土用の丑の日だな。北海道でも(うなぎ)食べるのか?おれは(うなぎ)大好きだな。」という一言に端を発しているらしい。今となっては昔のことだが、恥ずかしくもあり、懐かしくもある美味しい思い出である。