「ハイ」は一回!

校長 片山 造

北海道で教員をしている時の話。図書室に担任9人が集まり、選択科目やバランスを考慮しながら2年生に向けたクラス分けが行われた。2年3年と持ち上がりで、わたしのクラスは1組。クラス毎に写真入りの個人カードが並べられた。1組はなかなか個性的なメンバーが集まったなと感じていた。そんななか、「きっと、力になってくれると思うよ」一人の先生からS君のカードが渡された。彼(S君)は体も周囲への影響力も大きく、入学時から目立つ存在だった。言葉を交わしたことはなかったが、高校生だが妙に落ち着いていて、物事を達観(たっかん)している、そんな印象だった。(さて、1組は?S君はどんなものか)担任3周目だったが、生徒同様、教師だって新しいクラスへの期待と不安はある。

新学期が始まり、クラス発表の後、教室に生徒が集まった。そこで、学級通信を配りながら自己紹介をした。合言葉はもちろん【とことん】。クラス開きが終わり、解散となったところでS君に声をかけた。「よろしく頼む」するとS君は「ハイハイ」と返答した。その受け答えがあまりに軽かったので、思わず大きな声で「ハイは1回!」と言ってしまった。S君はこちらを見るでもなく、先ほどと同じ口調で「ハイハイ」と言いながら帰っていった。

それからというもの、話をする度、S君は「ハイハイ」と返事をする。その度、「ハイは1回」というやりとりが続いた。ほんとにわかっているのかなという思いがした。一方で、クラスにおけるS君の存在は絶大だった。困っているクラスメートのケア、行事に向けた企画力と推進力。人として学ばせてもらうことしきりだった。

3年の秋、大学の推薦書には彼を褒め称えるありったけの言葉を並べた。面接の後、S君は、ニヤリとしながら私に言った。「先生、推薦書に何書いたの?面接官に(さぞやあなたは魅力的で素晴らしい人なんでしょうね。推薦書に書いてあります)と言われて焦ったよ」

数年後、北海道を離れることが決まり、札幌市内の居酒屋でS君と合ってそのことを伝えた。S君は腕を組みうなずきながら私の話を聞いていた。別れ際、S君は私に言った。「1組のことは任せて。体には気をつけて。先生、それから、ハイは1回ですよね」うれしかった。コロナ禍が終息したら、また北海道に行きます。