おれの視界に入り込むな!

 北海道の漁師町の学校で働いていた時のこと。繰り返し暴力をふるい幾度も停学になる男子生徒がいた。彼は多くを語らず、事が起きると先生の聞き取りに対して「なぐりました」と一言答えるばかり。数回目の停学の時、家庭訪問をして話す機会があった。もちろん、寡黙な彼はこちらの問いかけにボソボソと返事をするだけで会話にはならない。

 会話が途切れた時、私は「どうして殴った?」と尋ねた。しばらく時間をおいてから、彼は「突然おれの視野の中に入ってきたから」と答えた。「ん?」彼は相手を認識して殴ったのではなく、人間のもっている動物的な本能として、瞬間的に(手が出てしまった)のだ。学校に帰り、先生方にそのことを伝えた。(はぁーっ?)という反応もあったが、そのことについてクラスの生徒たちにも伝えることにした。生徒たちは偉い。その後、彼の視野に突然入らず、声をかけたり回り込んだりするようになった。それからというもの、彼の暴力行為はなくなった。

 そんなことがあってから、生徒が何かした時、「なぜ○〇した?」ではなく、「何があった?」と聞くようにしている。