フクスケ?

 私が小学生だった頃、母親の実家(お寺)で、お盆に親戚で集まることがあった。子どもたちは本堂の広々とした畳の上で転がったり、境内でかくれんぼしたりしていた。かくれんぼの時、私は見つからないように、お寺の裏に回り込み、納戸に隠れた。するとそこにお姉さん方がやってきて話を始めた。聞くとはなしに聞いていると、どうやら、お姉さんの中の一人が、最近、お見合いをしたようで、その見合い相手の話をしているようだった。

「○○さん、ほんといい人で性格も仕事も申し分ないんだけど...。」

「いいじゃない。なにかあるの。」しばしの沈黙の後...「ちょっと顔がね...」

「どんな顔なの」「フクスケに似てる」フクスケ???

 その後、お姉さん方は見合い相手を苗字ではなく(フクスケ)と呼び続けた。

 わたしの頭の中は、ぐるんぐるんとフクスケで満たされていった。当時は携帯電話などなく、何かを調べるなら書籍という時代。気になって仕方がなかった。

 あとで分かったこと。それは、福助(フクスケ)は足袋などを製造・販売している老舗のメーカーで、その会社のロゴであることが分かった。子ども心に(穏やかなよい顔をしているなあ)と感じた。その後の親戚の集まりにフクスケに似た顔の人はいらっしゃらなかった。ということは...