校長 片山 造
昭和の文豪、国木田独歩の短編に「忘れえぬ人々」という作品がある。忘れえぬ人々とは、忘れてはならない人々のことではなく、(どうしても忘れられない人々)のこと。それは、人生において、ほんの一瞬の(言葉を交わさない場合だってある)出会いでもある。不思議なことに、その人を思い出す時、自分とその人が共存した景色やそこに流れていた空気感までも一緒に思い出される。
私の忘れえぬ人々、大学の卒業旅行で訪れた中国の桂林で物売りをしていた女の子である。女の子は大きな扇子を広げ、「千円(せんえん)」と言っている。私が要らないと首を横に振ると、扇子は2つになり「千円」、それでも買おうとしない私に「3つで千円」ときた。私に買う気がないことが分かると、「けちんぶー」と返してきた。30年以上前のこと、彼女は齢40歳を超えているはず。大人になって、上海等の都市に出て生活しているのだろうか?それとも、中国の内陸にとどまり、結婚し子供を授かり、その子供が成長し観光客に扇子を売っているのだろうか。
(イメージ)