校長 片山 造
家に居ながらにして、旅行や宇宙遊泳の疑似(バーチャル)体験ができるそんな世の中。しかし、いかに技術が進んでも、その土地でしか経験することのできないことがある。
北海道で教師をしていた時のこと。夜に生徒の家を家庭訪問した帰り、ふらりと立ち寄った海辺の食事処。それまで、「好物=肉」だった私を「魚好き」に変えさせるほどの出会いがそこにはあった。
ちょうど旬の時期だったので、サンマ定食を注文した。しばらくすると、目の前にどーんと分厚い肉厚のサンマ2匹と小鉢のついたサンマ定食が置かれた。その大きさに驚きながら、一口食べてみると、「なんと、美味しいこと!」今まで経験したことのない旨さが口の中に広がった。美味しそうに食べる私を厨房から見ていた店の主人が声をかけてくれた。「うまいっしょ。今のサンマが一番、脂のってるべさ。」「刺身も食うかい?」
サンマの刺身?初めて聞いた。鮮度が落ちると提供できないため、サンマを刺身で食べるなんてなかなかないことだ。この刺身がまた絶品だった。さらに主人は、「内風呂だけど、温泉入ってくかい?」と言ってくれた。(旬のうまい魚)そして(温泉)、明日への活力を生み出す至福の時間だった。その後、家庭訪問がなくても、その店に足繁く通うようになった。
自分の嗜好を変える出会いはどこにあるかわからないものだ。今までもこれからも、そんな出会いを愉しみに日々を過ごしている。