校長 片山 造
「先生、いてくれてありがとう」
ある日突然、生徒からそんなことを言われたことがある。もちろんこれは告白ではない。
私が教科「古典」を担当しているクラスの生徒が、どうやらクラスの中で孤立している。それは、授業をしていてなんとなく私にも伝わってきた。いたたまれなかったので、チョークを置いてクラスに聞いてみた。「なにがあったかは知らないが、ここ最近、クラスのムードがよくない。私になにかあるなら言って欲しい。」すると一人の生徒が「先生には関係ありません。...。」その後、何か言いたげだったが、そこで話は途切れてしまった。いや、その時、私は言葉を途切れさせる圧をクラスに感じた。
それから1週間ほど経った授業でのこと。黒板に古文の仮名文字を書いていた時、コツンと音がしたので振り返ると、丸めた紙が転がっていた。拾い上げて紙を引き伸ばした。そこには、意思のある悪意に満ちた文字で「〇〇うざい。...」と書かれていた。
私はその時間の残りの時間(5分程度)「言葉の尊さ」について話をした。確か、その時間の最後の言葉は「みなさんは、できるだけ美しい言葉を使いながら、皆が過ごしやすい世の中を創ってください。」だったような気がする。
私は直接、その生徒のために何かをした訳ではない。でも、その生徒は卒業していく時も、わざわざ私の教室まで来て、「なんとか卒業することができました。本当にありがとうございました。」と言ってくれた。それに対し、私は「こちらこそ」とだけ言ってグータッチ?をしたような気がする。(そこにいるだけで勇気づけられる存在)とは何だろう。