新しい生活が始まる

 20才半ばの4月、桜舞い散る大阪からまだ雪残る北海道の田舎町の学校に教員として赴任した。住むところは学校に紹介してもらった正門から道ひとつ隔てたアパート。引っ越しの荷物は、車に積んだお気に入りの書籍数冊とCDデッキという軽装だった。

 学校に挨拶を済ませ、その後、身の回りの必要なものを買うため、近くの商店街の荒物屋にいった。そこで、ほうきやちりとりを購入した。お金を払おうとレジに行くと、店のおばあさんが「先生様、1,500円です」と私に言った。

 (ん?)なぜ、私が教員とわかったのか?不思議に思い、レジの後ろを見ると、そこには、町の広報誌が貼ってあり、新着任の先生や役場の職員が写真入りで紹介されていた。

 アパートに帰ると、家の中で何人かの生徒が待っていた。あまりにものどかだったため、鍵をすることも忘れていたのだ。生徒たちは、どうやら、今度来た先生はどんな人物か品定めにきたようだ。飲み物とお菓子の袋を携えている。互いに名乗りもしないまま、一緒にお菓子を食べた。何とも言えない(不可思議な時間)がそこには流れていた。

 その後、堰を切ったように質問タイムに突入した。①「内地からきたの?」②「大阪弁教えてよ」③「彼女はいるの?」...。ひと通りの質問が終わった後、互いに名前を名乗り「したっけ(ではまた)」と生徒たちは帰っていった。

(新しい場所で、新しい生活が始まったなぁ)と実感できたそんな瞬間だった。