教師になって最初に教えられたこと。それは、生徒指導のスキルでも成績のつけかたでもなく、(美味しいお茶の淹(い)れ方)だったような気がする。
職員室の私の横の席に50才代の女の先生(国語)が座られていた。先生はなぜだか、管理職の先生にではなく、初任者の私に毎日、お茶をいれてくれた。そのお茶がとても美味しかった。最初の内は、お茶がこんなにも美味しいということは、きっと新茶や玉露だからと思い込んでいた。あるとき、お茶のパッケージをみた。高級茶と書いてあったので、(やはりそうか)と合点した。
それから後、近所のスーパーに買い物に行った時、同じバッケージ(高級茶)をみつけた。家でも飲んでみようと思い、手に取って値札シールをみて驚いた。280円!
次の瞬間、(どうしたらあんなに美味しいお茶がいれられるのだろう?)と考えた。
次の日から、先生がお茶を入れているところをこっそりみて、その秘密を手に入れようとした。すると、いくつか分かったことがあった。それは、温度とタイミング。急須を購入して、家でもお茶を入れてみた。何度か試してみたものの、なかなかうまくいかない。
ある日、思い切って先生に「どうしたらあんなに美味しいお茶がいれられるのですか」と聞いてみた。先生は(にっこり)微笑み、私にお茶の入れ方を教えてくれた。未だに、納得のいくお茶をいれることはできないが、お茶のいれかたを通して、教員として、人として大切ななにかを教えていただいたような気がする。