ネクタイの話

 卒業式が終わり、教室で最後のHRをした際、クラスの代表生徒から花束とともに渡されたリボンのついた箱。開けようともせず「ありがとう」と一言、その場をやり過ごそうとしたところ、生徒たちの熱い視線を感じた。(ハイハイ)と箱の中身を確認したところ、(ドラえもんのネクタイ)が入っていた。目線をあげると、クラスの生徒たちが、こちらを見ながらニヤニヤしている。

 正直を信条とする私は(すまないが、これつけることはない。)そう言おうとした瞬間、生徒の一人が「先生、このネクタイ、この先大切なここぞという時につけてください。」と澄んだ目で言った。その言葉を受け、(ハハハ...)と苦笑いするしかなかった。

 それから10年の歳月が経過した。今、私の胸には(ドラえもんのネクタイ)が欠かすことのできないものになっている。特に緊張した場面において、その効果は絶大である。ドラえもんのネクタイは対面する人の心を和ませる、そんな効果があるようだ。

 ちなみに、生徒が言っていた(この先大切なここぞという時)は、そのクラスで私が話をまとめる時によく使っていた言葉であるらしい。ああ恥ずかしい(><)