分かっていたつもり(><)

校長 片山 造

分かったふりして分かっていなかったこと。北海道に渡り?4年目のこと。初の3年生担任を受け持った。40名のクラスで、半数以上は就職希望だった。道外からの求人は多いが、道内→札幌とその数は減少し、地元室蘭・登別となると高卒求人はほとんどなくなる。そんな中、ある女生徒が「先生、地元のスーパーに就職したいです。」と言ってきた。社長さんと社員さんの笑顔はじける接客で、地元でも人気の店だった。そのスーパーから求人票もきており、それなら、ということで、「履歴書書き」「面接練習」を経て9月の就職試験に臨んだ。結果は内定。放課後の教室で、ささやかではあるが、お菓子とジュースで(おめでとう)の言葉とともに数名の生徒とお祝いをした。彼女はうれし泣きをしていた。

それから3か月後、クリスマスを前に、彼女の入社を待つことなく、そのスーパーは倒産してしまった。以前から経営がうまくいっておらず、そこに近隣に大型スーパーが進出してきたものだからどうすることもできなかったようだ。菓子折りを持ってスーパーの社長が学校と本人に謝罪にきた。「一緒に仕事できることを楽しみにしていましたのに...我々の努力不足です。申し訳ありませんでした。」財務処理で大変だろうに、いつもの笑顔もなく、深々と頭を下げる社長さん。長らく経営してきたスーパーが倒産することはさぞや無念だったに違いない。女生徒の涙とともに、その場に、なんとも言えない重苦しい空気が流れた。

玄関でスーパーの方を見送りながら、少しでも彼女の気持ちが和らげばと思い、「入社する前でよかったじゃないか、レジ打ちぐらいまたすぐ見つかるって」と言った。その次の瞬間、うつむき涙を流しながら女生徒は言った。「先生はなにもわかってない」

その言葉が胸に刺さった。30才、教員4年目の私は、その生徒が言う通り(働くということ)や(人の気持ち)について、分かったふりをしていただけだった。就職試験のこの時期になると、このことを思い出し自戒している。因みに、彼女はその後、アパレル系の会社に就職した。