ほんとはね...

校長 片山 造

「先生、ほんとはね...」放課後、ひとりの生徒がグラウンドで野球部員とキャッチボールしている私のもとに来て言った。「タバコで何人も停学になってるけど、実は○○君が中心なの」驚いた。○○は、クラスの数名が喫煙で停学になった時、いち早くクラスに呼びかけ(NO MORE TOBACCO!)と言ってくれた生徒である。生徒の話は続く。「○○君がみんなにタバコを広めたの」これにも驚いた。私の呼びかけに「学校のルールを破り、タバコを吸う奴なんて許せない。」と発言した生徒、それが○○である。本人に確認するわけにもいかず、悶々とした時間を過ごした。数日後、生徒がまたまた喫煙。私はクラスに報告するとともに生徒に呼びかけた。クラスがいつになくざわついた。どうやら私は無意識のうちに○○だけをじっと見て話をしていたようだ。

その日の放課後、掃除をしている私のところへ○○がやってきた。「先生、温泉好きなんでしょ、行こうよ。」学校から10キロほど離れたところに登別温泉があり、そこの銭湯「さぎり湯」によくいっていた。部活を終え、車で銭湯に向かった。待ち合わせ場所に○○は来ていなかった。(やられた)と思った。当時は、携帯電話も普及していない時代。少し待って来なければ、ひとりで温泉に入って帰ろうと思っていた。すると、向こうから「先生、先生~」と○○の声が聞こえてきた。みると、○○は自転車を立ちこぎしながら坂を駆け上がってきていた。なんと汗だくになりながら15キロ離れた家から自転車でやってきたのだ。

ふたりで温泉に入った。終始無言だった。温泉街の「北海道で2番目に美味しいラーメン屋さん」という看板のカウンターに並び、味噌ラーメンをすすった。ここでも終始無言だった。なかなか話をきりだせないままラーメンを食べ終え店を出た。

「先生ほんとにごめん。もうやめっから。」○○は自転車に飛び乗り手を振りながら坂を下っていく。その風景を見送りながら、嬉しさを抑えきれず手を振りながら自然と飛び跳ねていた。温泉街を浴衣姿で歩いている観光客の目など気にすることなく...

その後、○○は卒業までに2回、喫煙で指導を受けることになる。その度に、「先生ほんとにごめん、今度こそやめっから」そして「あの時のラーメンうまかったなぁ」と言っていたのを昨日のことのように思い出す。