映画の話

校長 片山 造

映画がまだ白黒だった時代。世界的に有名な映画監督である黒澤明が映画「天国と地獄(1963)」に出演する俳優のオーディションをおこなった。そこに応募したのは、当時25才で無名の役者だった山崎努さん。しかし、彼は最終オーディションに臨むにあたり、実は俳優として致命的な問題を抱えていた。

それは...(相手の目をみて話すことができないということ。)

映画の役柄(誘拐犯)上、サングラスをしている場面が多くみられたが、ラストはサングラスなしの眼力を必要とするシーンが待っていた。

黒澤監督は撮影現場ではサングラスをかけており、それがトレードマークとなっていた。山崎努さん自身がインタビューでこう答えている。最終オーディションで、黒澤監督はおもむろにサングラスを外し、優しい眼差しで山崎さんに「私の作品に出たいですか」と聞いてきた。それに対し、素直に「あなたの作品は面倒なことがたくさんあると聞いている。できれば出たくない。」とつい本当に思っていることを言ってしまった。そうさせたのは、黒澤監督の目に汚れがなく嘘がつけなかったから。

その演技を機に、山崎さんは目を見て演じることができるようになった。「マルサの女」「影武者」「おくりびと」「八墓村」「クロサギ」...。その後の活躍は多くの人の知るところである。(人生どこでどうなるかわからない)しかし、そこには必ず(出会いや気づき)がある。