たからもの?おくりもの?

 私が中学1年生の時の話。社会科の地理の時間に担任でもある室谷五郎先生が「エジプトはナイルの賜物(たまもの)。この意味を説明することのできる人はいますか」とクラスに問いかけた。以前、授業で先生が言ったことを覚えていて、ノートにメモもとっていた私は、それを確認してから、力強く手を挙げ自信満々に「エジプトにとって、ナイル川は豊かな恵みをもたらす(たからもの)という意味です」と答えた。

 次の瞬間、室谷先生の動きが止まった。いつものように満面の笑みで「その通り、正解!」と言ってくれるかと思っていたら、予想外の言葉が返ってきた。「造ちゃん、それは少し違うな。たからものではなく(おくりもの)が正解です。」

 私は級友から笑われながら(ええーっ、先生、前に(たからもの)って言ったやん)と言うのをぐっとこらえた。このことは、良くも悪くも、今に至るまで、私にとって教訓として心に刻まれている。

(言われたことをうのみにするのではなく、確認しながら自分なりに表現する)

 今なら、あの時、先生が最初に(たからもの)と言い、次に(おくりもの)とおっしゃったのがわかるような気がする。

※山川出版の世界史用語集より「エジプトはナイルの賜物」

「古代ギリシャの歴史家ヘロドトスが著した『歴史』のなかのことば。ナイル川の定期的氾濫が麦の生育サイクルと整合したため,農耕文明の繁栄が可能となった。」