1年生対象「SSH講演会」を開催

 12月12日(木)4限、1年生の学校設定科目「セレンディピティ(SD)」において、1年生を対象としたSSH講演会を岸高ホールで行いました。今年度は一般社団法人Glocal Academyの岡本尚也代表理事に、「自己実現と探究の可能性」という題でご講演いただきました。

 岡本代表理事は慶應義塾大学理工学研究科修了後、ケンブリッジ大学にて物理学博士号、オックスフォード大学にて日本学修士号を取得されています。帰国後、2016年よりGlocal Academy代表理事を務めるとともに、現在、東京大学先端科学技術研究センター客員上級研究員、鹿児島市教育委員、文部科学省中央教育審議会臨時委員(高等学校教育の在り方ワーキンググループ)もされています。また、本校が「セレンディピティ(SD)」で副教材として活用している「課題研究メソッド」の著作者でもあります。

 講演は自己紹介の後、「何のために課題研究をやっているのか分からない。」、「課題研究は面白くない。」という生徒はいますかという問いから始まり、その後、ご自身の体験談を交えながら、様々な視点から次々と話しが展開していきました。講演の内容を岡本代表理事の言葉をベースに要約すると、以下のようになるかと思います。

 課題研究の意義について、「『総合的な探究の時間』は、自分は何がしたいのだろう、どのように生きていくのだろうと考えるために始まった。」、「人生は1回しかない。自分が何を考えて、どういう価値観を持って生きていくのかは重要」、「情報があふれ選択肢が多くある時代だからこそ、自分を見つめて自分と向き合う時間が重要」といった話しがありました。

 自己の価値観について、「自己(価値)を相対化させることが重要。今、自分がどういう人間なのかはなかなか分からない。人の価値観は様々。若いうちにいろいろな経験をする。短期でもよいから海外にも行ったほうがよい。海外に行くと、自分が当たり前と思っていたことも全く当たり前ではなくなる。こんな考え方もあることに気づく。」といった話しがありました。

 課題研究のテーマについては、「テーマを決めていく中で大事なのは、興味・関心のあることや自分の生き方に関連するテーマを、自分で見つけることが重要」、「自分で理解可能な範囲のテーマにすることが必要。理解できないのに切り貼りしてまとめることに意味はない。」、「高校の時の研究は社会の役に立たなくてもよい。大人になると否が応でも役に立つことをしなければならない。文学に興味あるなら基礎研究おおいにやればよい。今やらなければいつやるの。国際シンポジウムではザリガニの胃の中にある石の研究をしていた。すごいなと思った。」といった話しがありました。

 課題研究をすすめるにあたっては、「どのようなテーマであっても、深めることが重要」、「深めるとは、知識を使っているかどうかもあるが、間に問いがあるかどうか。探究は思い込みやアイデアですすめるのではなく、問いをベースにすすめていく。」、「何でこうなっているのだろうか、本当にこうなっているのだろうか、条件変えたらどうなるのだろうかとか、問いを何度も繰り返して知識理解を深めていき、その中でまた新たな問いをつくっていく。そういったプロセスが重要」、「問いを繰り返していく中で、難しくなってきたところがポイントとなる。厳しいなという問いでやめるのであればよいテーマではないかもしれないし、力はつかない。負荷がかかる問いに対していかに踏み込めるかが重要。どれだけ粘り強くできるか、ここが深い学びであり、次につながる力になる。これが本当の学問であり、勉強も本当はこうやって進めていくべきである。」といった話しがありました。

 自分の持つ興味・関心を探ることについて、「今日話しを聞いていても、印象に残った言葉や引っかかった言葉は一人ひとり異なる。そういうことの積み重ねによって自分はどういうことに興味があるのかが分かってくる。」、「テーマは見つかるものではなく見つけるもの。テーマが決まらないという人は決めようとしていないから。きちっと情報を集めながら、心に残ったことを書き留めていくことが重要」といった話しがありました。

 大学の役割と高校時代について、「大学に入る目的はこれから生きていく中で、自分の軸にするものを磨いていくこと。自分の自己実現のために必要な勉強」、「その前の高校段階では、何がしたいのだろう、どういうことを生きる上での強みにしていくのかなどを考える時間がある。大人になるにつれて、やりたいことよりやらなければならないことが増えていく。高校の3年間は貴重である。時間のあるときに、自分と向き合えという話し。やりたいことをやる。本当にやりたいことがあるならば、それを制限する必要はない。」、「高校生活も大切、勉強することも大切。でも勉強は筋トレ。つけている筋肉をどう生かしたいのかを考えなければならない。それが探究。いろんなものに触れることが大切。目的なく筋トレすることは続かない。これをやりたいなとなれば勉強もやる。」といった話しがありました。

 教科学習について、「教科学習は重要。何のためにやっているかは、本気で探究やっているとその目的が見えてくる。自分がやりたいことが見つかって、それを理解するために勉強する。今、すべて順番が逆。教科書も順番が逆になっている。」、「なぜ勉強がつまらないかというと与えられているから。人間の思考としては逆になっている。なぜ太陽は東からのぼって西に沈むのだろうという疑問があって観察や実験、研究が行われて、それが今、知識となっている。皆さんは今、その知識が先にある。探究をやる中では、問いが先にある。それが人間の当たり前の思考の順序である。」といった話しがありました。

 他にも、言葉の定義には気を付けなければならない、正しい情報かどうかを確かめる際に何をもって正しいかどうかの判断をするのか、参考文献と引用文献などについての話しもありました。

 そして最後に、「課題研究は面白くない。」という生徒たちに向けての言葉になりますが、「『答えはでなかったけど、ここまで深めて様々なことを理解しました、楽しかったです。』というのが最高。高校の中で唯一好きなことを思いっきりできるのが探究。自分に正直なものを出せるのが探究。おおいに楽しんでやってほしい。」とのメッセージをいただきました。

 私にとってはとても興味深い講演でした。生徒の皆さんは今回の講演を聞き、どのような言葉が気になったでしょうか。私は同意・納得した言葉がたくさんあります。例えば、「自分がやりたいことを見つけるために探究を行う。」、「自分を見つめて自分と向き合う時間が重要」、「問いをベースにすすめていく」、「勉強は筋トレ。つけている筋肉をどう生かしたいのかを考える。」、「勉強がつまらないのは与えられているから。人間の思考としては逆」などでしょうか。また、講演終了後、校長室での「探究」と「教科学習」、「進路」の3つを繋げることが重要という言葉も印象に残っています。

 この度はお忙しい中、本校生徒また私を含めた本校教員のためにご講演いただき、ありがとうございました。お話しいただいた内容を踏まえ、課題研究が生徒たちにとって、自らの生き方を考える機会となり、また、深い学びへとつながり、意義あるものとなるよう尽力したいと考えています。これからもご指導いただきますよう、よろしくお願いします。

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