第74回卒業式校長式辞

 昨日行なわれた卒業式のようすと校長式辞です。

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 本日ここに、大阪府立豊中高等学校、第七十四回卒業証書授与式を挙行いたしました。本来、多数のご来賓の方々のご臨席を賜り執り行うところですが、座席の間隔を十分に取る必要性から、本日は卒業生・保護者の方々、教職員の参列により行なうことと致しました。どうかご理解のほどよろしくお願いいたします。

 保護者のみなさまには、めでたくお子様がご卒業をお迎えになりましたこと、心よりお喜び申し上げます。また、この場をお借りしまして、本校教育へのご理解、ご協力、ご支援に対し、深く感謝を申し上げます。

 さて、高校の全課程を修了し、ただいま、卒業証書を授与された七十四期生のみなさん、ご卒業おめでとうございます。 豊中高校での三年間、うれしかった事やつらかった事など、さまざまな事を乗り越え、今日という日を迎えたみなさんの真摯な努力に心から敬意を表します。

 しかし、卒業はみなさんの努力だけでなしえたことではありません。これまでみなさんを育ててこられた保護者やご家族の方々、時には優しく、時には厳しく、教え導いてくださった先生方、温かく見守っていただいた地域の方々に支えられた賜物であります。感謝の気持を忘れないようにしてください。 

 私は三年間、みなさんを見てきましたが、時代は変わっても、「さすが豊高生」と思ったことが度々あります。特にこの2年間は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、授業・学校行事・部活動などの実施について変更が余儀なくされました。そのような状況の中で、皆さんが共に支え合いながら高校生活を全うされたことに、重ねて敬意を表します。

 今回のコロナ禍でも私たちが経験したとおり、これからの時代は、世界が一丸となって新たな課題を解決することが求められる時代となります。既存の知識をたくさん持っていることだけで、課題を乗り越えることのできた時代は終焉を迎えているといっても過言ではありません。

 未来を担うみなさんには、課題を見出し、その課題を解決するために、必要な知識を選択し、自分の考えを構築して、人々と議論しながら、周囲の人々を巻き込み、行動に移していくような、そんな「学び」を継続することが求められています。

 このような時代を生きるために、大切にしてほしいことを五つ示します。

 まず、一点目は、「学び続けること」そして、「学び」に対して謙虚であることです。アインシュタインによると、「学べば学ぶほど、自分がいかに無知であるかを思い知らされる。自分の無知に気付けば気付くほど、より一層学びたくなる。」のだそうですが、まさにその通りだと思います。自分の無知を自覚して、謙虚に「学び」に向かってください。

 二点目は、「遊び心」であります、オランダの歴史学者であるヨハン・ホイジンガは、人間の存在をラテン語で、「ホモ・ルーデンス」であると主張しました。「ホモ・ルーデンス」とは「遊ぶ人」のこと。遊びの要素が文化を創造することの根源であると主張しています。苦難に直面したときにこそ、この遊び心をもち続けて欲しいのです。

 三点目は、今の社会はIT化が進み、何でも可視化される世の中です。だからこそ、可視化できないものの価値を知っていてほしいと思います。目に見えることだけでなく、人に知られなくても黙々と努力する行動に私は敬意を評したいと思うのです。サン・テグ・ジュペリの「星の王子様」の中に、フランス語で"On ne voit  bien  qu'avec le coeur""L'essentiel est  invisible pour les yeux"という一節が出てきます。日本語に訳すと、「心で見なければよく見えない。大切なことは目には見えない。」となります。どうか、心で物をみるという感性を養ってください。

 四点目は、もし失敗をした場合にどうするかです。「君子は豹変す」という言葉があります。「自分の都合により態度を一変させる」というように誤って使われることもありますが、本来の意味は、「立派な人は過ちに気づくとすぐにそれを改めるということ」なのです。「君子は豹変す」そういう人であってほしいと思います。

 最後に、「ノブレス・オブリージュ」です。「ノブレス・オブリージュ」 ― この言葉は、直訳すれば「貴族の義務」という意味ですが、私は、「豊高生に求められる、義務としての幅広い努力」と翻訳したいと思います。繰り返します。「豊高生に求められる義務としての幅広い努力」です。みなさんの多くは、これから専門領域を深く学ぶことが多くなるわけですが、自分の専門領域以外の学問やスポーツ・芸術などにも興味をもって、幅広く教養を広め、培った能力を社会に還元してください。今の自分に満足しないで、幅広く努力することが豊高の卒業生には課せられているのです。これが豊高生の「ノブレス・オブリージュ」であります。

 キーワードは「自分の無知を知り謙虚に学ぶこと」、「ホモ・ルーデンス」、「目に見えないものを心で見ること」、「君子は豹変す」、「ノブレス・オブリージュ」の五つです。

 ここまでの話は、毎年、卒業生に式辞の中で伝えた話です。私事で恐縮ですが、わたくしはこの3月末で、37年間の教員生活に終止符を打ちます。まもなく60歳となり定年退職です。人生はこれからも続くのですが、60年間の人生を振り返り、みなさんに伝えたい話をもう一つさせてください。

 私の好きな作家で、25年前に亡くなった遠藤周作という人がいます。彼の作品の中に「砂浜は歩きづらいが、振り返ると波うちぎわに自分の足跡が、自分だけの足跡が、一つ一つ残っている。アスファルトの道は歩きやすいが、そこに足跡など残りはしない。」という一節があります。人生の中で、自ら望む・望まないにかかわらず、「砂浜」を歩かざるを得ない時もあれば、アスファルトの道を歩く時もあります。私の経験から言えば、「砂浜」を歩くような時期にこそ、「アスファルトの道を歩く時が必ず来る。」と楽観的に考えことが大切で、自分の人生に与えられた不可避な試練ととらえて、前向きにその試練を克服する努力を惜しまないことが重要だと思います。また、「アスファルトの道」を歩く時期には、そのときの現状に甘んじず、さらに高い目標を自分に課し、自らを高め、いずれ訪れる「砂浜」を歩くときに備え、十分な知力を蓄えることが大切です。

 結びに、豊高で出会った友人や先生方との絆をこれからも末永く大切にし、未来へと羽ばたいてください。

令和4年3月1日

大阪府立豊中高等学校

校長 平 野 裕 一